奄美大島の油井(もしかしたら、久根津という部落だったかもしれない)には、一か月ぐらい滞在していた。
その間に、ハブ狩りがあった。
奄美大島には毒蛇のハブが居る。僕たちの宿のとなりの子は、たしか小学校5年生だったか、ハブに噛まれた跡がある。足を噛まれたのだが、すぐに噛まれたところを鎌で切り裂いて、毒を出して、命を取り留めた。その切り裂いた無残な傷跡がある。
夜歩くことは、できればやめる。歩くときには必ずライトで足元を照らす。道をそれて藪の中には絶対に入らない。
ハブは夜行性であり、熱ホーミング、熱に対して飛びかかってくる。餌にするネズミやウサギが体温が高いからだ。
道には、ところどころ棒が置いてある。ハブを見つけたら、この棒で頭を押さえてできれば捕まえる。捕まえられなければ殺してしまう。
部落の人たちが総出で、ハブを狩るのは、とらえたハブを保険所に送って、血清を取る材料にするのだという。ハブの供出がないと血清の配給が受けられない。
一日がかりで、ようやく一尾採った。
ハブ狩りが終わると、八月になり、八月踊りになる。部落の人全員が広場に集まり、焚き火を焚きその周りで、太鼓を叩き、口笛を吹き、蛇皮線をかなでて踊る。要するに盆踊りなのだが、八月踊りは、七日七夜、毎日踊る。
部落には、若い娘が居ない。若い女性は、ほとんどすべて、台湾か日本本土、四国などに出て行ってしまう。
八月踊りの時には、彼女たちが帰ってくる。僕たちがお世話になっている家には、良雄君と言って利発な子がいた。白井さんは彼を東京に呼び、学校に通わせて、生長してから助手にしていた。ずいぶん長い間助手をしていたけれど、今はどこにいるのだろう。今度白井さんに会ったら聞いてみよう。
その良雄君の姉さんが八月踊りに戻ってきた。本土のどこかで美容師さんをやっているのだという。若い女性を長い間見なかったから、まるで花のように見えた。もちろん、ちょっとばかり美人でもあったのだが。
白井先輩に忠告された。「須賀君、気をつけなあかんよ、殺されるよ、島の青年に。」島の娘が帰ってきたとき、若者の間で争奪戦が起こる。血の雨がふることもしばしばだという。