かいよう
1月25日、海洋研究開発機構の岸壁には、「かいよう」と「かいれい」が横付けになっていた。
海洋研究開発機構の訓練プールを使わせてもらうので、その前身である海洋科学技術センターの発行した、ニューシートピアシンポジウムの報告書をとりだして見た。平成3年2月発行の資料である。日本が行なった水深300m、実海域での飽和潜水実験の報告書である。
その巻頭「日本の飽和潜水について:石倉秀次 (日本深海潜水技術協会会長)より引用する。
「1984年5月、ニューシートピア計画の海中作業実験船「かいよう」2849トンが竣工した。以来実験をくりかえし、1990年、7月には、300mの有人潜水実験が実施された。
シードラゴンとニューシートピア計画の完了によって、海洋科学技術センターは、飽和潜水技術の開発について、「かいよう」に設備されたSDC・DDC システムの能力一杯の研究を完了した。海外における潜水技術の開発は深度については600mを越え、700mに達しようとしているが、注目すべきことはフランスでは1970年代の前半で、大深度に対する挑戦は終息したように思われる。
一方、飽和潜水の開発が緒についた1960年の初期には海底での調査や作業はダイバーでなければ出来なかった。それがその後海洋工学の進展により海中での調査や簡単な作業が各種のROVの開発があり、海底はダイバーの独壇場ではなくなった。また重装備による海中での軽快性に難点はあるが、耐圧潜水服での潜水も可能であり、ROVであれば、数千メートルの調査や作業もできるという進展もあった。それでは有人潜水技術が全く無用になったかと言えば、それは誤りであろう。その理由はダイバーが調査、作業においてROVとは異なって現場での総合判断力とそれに基づく行動力を持つからである。これからの問題は、シートピア計画に始まった一連の実験で開発された300mの飽和潜水技術をどのような分野でどのように活用するかを明らかにすることであろう。」
海洋科学技術センターは、海洋研究開発機構と名前を替えて、国の海洋研究のほとんどすべてを行うようになった。
いまや、深海6500と、ROVが先端の技術であり、花形である。
岸壁に横付けになった飽和潜水の海中作業実験船だった「かいよう」は、ROVの母船になっている。
この報告書の後半は、Scientist in the Sea として科学者の潜水について述べられているが、その後20年、あまりにも高いレベルを目指しすぎたのではないかと思う。科学者ダイバーの養成も途絶した状態になり、有人潜水、科学者ダイバーの教育、研究は、海洋研究開発機構のレパートリーでは無くなってしまっている。そして、サイエンス・ダイバーは、Cカードと潜水士免許でダイビングを行い、スポーツダイバーよりも、低いレベルの技術で、薄氷を踏むダイビングを行う。
その安全を目指そうとするのは、私たちが第一歩を踏み出したばかりだ。